教育DXとは?AIを学習・校務・教育データに活かす進め方
2026/09/24
教育DXとは、授業の進め方や教職員の仕事、教育データの使い方を、学校や教育委員会が目指す姿に合わせてデジタル技術で見直していく取り組み全体を指します。
1人1台端末や通信ネットワークの整備はその基盤であり、AIはそこで活用できる技術の一つです。教育DXの目的が先にあり、その実現手段としてAIが使える場面を見極めることが、教育DXにおけるAI活用の位置づけになります。
教育DXを進めるとき、端末やAIの導入が先に立つと、導入が目的となり現場での負担軽減や効果が見えづらくなります。まず決めたいのは、授業、教職員の仕事、教育データの使い方のうち、どこをどう変えるかです。
目的が決まれば、AIを使う場面と、試行後に見る項目を選びやすくなります。学習、校務、教育データのどこから始めるかを決めたら、まずは対象を絞って試してみましょう。そこで残した記録は、校内ルールや支援方法を実態に合わせるための材料になります。
この記事でわかること
・教育DXで最初に決める目的
・学習、校務、教育データにAIを取り入れる方法
・教育DXを進める5段階
・AIを取り入れた授業と組織運用の事例
・学習、校務、教育データをつなげて運用する考え方
教育DXの目的と全体像
教育DXの出発点は、地域や学校が抱える教育課題のうち、どの課題を、どの学校・学年・業務で、どのように改善するのかを定めることです。まずは学校や教育委員会で、授業、教職員の仕事、学習環境、教育データの使い方を見直し、解決したい課題を共有しましょう。その課題に合う端末やサービスを選ぶと、導入の目的がぶれにくくなります。
デジタル庁の「教育DXロードマップ」では、教職員の負担軽減、多様な学びに向けた環境整備、データを用いた学習者の自己理解や教師の見取りなど、5つの観点が示されています。端末の利用回数だけでなく、授業や仕事、データ活用に生じた変化を捉える考え方です。
参考:デジタル庁「『教育DXロードマップ』を策定しました」(2025年6月13日)
文部科学省の実証事業でも、教育分野に特化した生成AIのモデルやサービスの開発などを通じて、教育課題の解決につながるかが検証されています。AIを取り入れるときも、教育DXの目的に照らし、効果と課題を見ながら進めましょう。
参考:文部科学省「生成AIの活用を通じた教育課題の解決・教育DXの加速」
目的は、「誰の、どの場面を、どう変えるか」がわかる一文にしておきましょう。授業なら「振り返りで自分の考えを書きやすくする」、校務なら「アンケートの集計時間を減らし、授業準備の時間を確保する」といった形です。この一文が決まると、AIを使う場面と試行後に見る項目も絞りやすくなります。
教育DXにAIを取り入れる3つの領域
AIを取り入れる場面は、「学習活動の支援」「校務の支援」「教育データ利活用」の3つに整理すると検討しやすくなります。利用者、扱う情報、目指す変化が異なるため、利用条件と評価方法は領域ごとに決めておきましょう。
| 領域 | 主な利用者 | 目指す変化 | 活用例 | 試行後に見る項目 |
|---|---|---|---|---|
| 学習活動の支援 | 児童生徒、教職員 | 考えを深め、学びを振り返る | 問い返し、意見の整理、振り返りへの助言 | 思考の過程、理解の変化、出力を検証した記録 |
| 校務の支援 | 教職員 | 作業時間を減らし、授業や児童生徒に向き合う時間を確保する | 文書のたたき台、教材案、アンケートの整理 | 所要時間、修正量、誤りの有無 |
| 教育データ利活用 | 教職員、教育委員会 | 学習や生活の状況等を捉え、支援や授業改善に役立てる | 学習記録や調査結果の可視化と分析 | データの正確性、支援への反映、閲覧権限 |
学習では思考の過程を支える
学習で生成AIを使うときは、児童生徒が考えを言葉にできるようにして、別の見方に気づける応答を設定しましょう。授業のねらいに合わせて、理由や根拠を尋ねる、異なる立場から問い返すといったふるまいを選ぶと、思考を深める対話につながります。
授業案には、生成AIへ入力する情報、教員が設定するふるまい、対話後に児童生徒が残す記述を記載しておきましょう。生成AIの回答には誤りが含まれる可能性があります。教科書や資料と照らし合わせる時間を授業に設け、根拠を調べた過程も記録しておくと、生成AIとの対話が思考をどう支えたかを振り返れます。
利用前には、サービスの利用規約、対象年齢について校内での扱いを決めておく必要があります。あわせて個人情報や著作権の扱いなど押さえておくべきポイントに関して伝えましょう。
校務では作業範囲と点検する人を決める
校務では、文書のたたき台、教材案、アンケートの自由記述の整理など、業務の効率化や教育活動の質の向上につながる作業に生成AIを活用しましょう。授業で児童生徒が使う生成AIとは利用者も扱う情報も異なるため、それぞれの方針やルールを確認して利用する必要があります。
生成AIの出力は参考の1つにとどめ、完成物は教職員が内容を確かめてから使いましょう。作業時間、修正量、誤りの有無を確認し、生成AIの使用が効率化につながる業務かを判断でしましょう。
文部科学省のガイドラインは、学習場面と校務での利用を分け、それぞれの留意点と具体例を示しています。校内ルールや研修を整える際に利用場面ごとに読み分けると、自校で定める条件を整理しやすくなります。
参考:文部科学省「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)(2024年12月26日)」
教育データを使う目的を先に決める
教育データを集めることや可視化すること自体を目的にせず、どの教育課題の解決に使うのかを先に定めましょう。学習記録、ドリルの結果、アンケートを「理解につまずきのある単元を把握し、次の授業で補充問題を出す」「支援前後の記述を比べる」など、分析結果を授業や支援にどう生かすかまで具体的にしておくと、次の行動につなげやすくなります。
運用前には、閲覧できる人、保存期間、外部サービスへ渡す情報の範囲も定めておきましょう。分析結果だけで児童生徒を固定的に評価せず、教職員の見取りと照らし合わせれば、次の授業や支援を考える材料になります。
教育DXにおいて生成AIを取り入れる5段階
教育DXの一環として生成AIを取り入れる基本は、目的を決め、小さく試し、その記録を次の改善に生かすことです。全校で一斉に始めると、利用場面ごとの課題を切り分けにくくなります。試行は、1つの学年、教科、または校務から始めましょう。範囲が明確になれば、ルールや支援も試行結果に合わせて整えやすくなります。
学校と教育委員会で、目的、利用者、情報の扱い、評価項目を共有し、それぞれの役割から運用を見直しましょう。進め方は次の5段階です。
1.解決したい課題と評価する項目を決める
課題は、「振り返りで自分の考えを書きやすくする」「アンケートの整理にかかる時間を減らす」など、利用者と場面がわかる一文にまとめましょう。
試行後に見る項目は1つか2つに絞りましょう。学習なら記述内容の変化、校務なら作業時間や修正件数が候補です。試行前も同じ項目を記録しておくと、生成AIを使う前後を比べられます。
2.利用する人と場面を絞る
授業なら学年、教科、単元、学習活動まで、校務なら文書作成、授業準備、集計などの作業まで範囲を絞りましょう。利用者と場面が決まると、必要な権限、入力できる情報、教職員が点検する箇所も具体化できます。
3.安全に使うための条件と手順を整える
校内ルールに必要なのは、入力できない情報、生成物を引用するときの著作権の扱い、誤りを見つけたときの対応です。児童生徒には、生成AIの特徴と限界、出力を検証する方法を伝えましょう。校務で使う場合は、完成物を点検する人も作業ごとに決めておくと、責任の所在が明確になります。
4.小さく試し、改善に必要な記録を残す
試行中に残したい記録は、うまくいかなかった入力、教職員が直した箇所、児童生徒が戸惑った場面、準備にかかった時間です。教科会や校務分掌の打ち合わせでは、その記録を基に、生成AIのふるまい、教材、点検手順のどこを変えるかを話し合いましょう。成功例と使いにくかった場面の両方が、次の試行を調整する材料になります。
5.学校と教育委員会の双方で運用を見直す
学校では授業や校務の記録から改善点をまとめ、教育委員会では方針、利用環境、研修、相談体制を点検しましょう。文部科学省の「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト(令和7年度~)」は、学校向けと学校設置者向けの2つです。それぞれの役割から課題を洗い出すときに使えます。
参考:文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXチェックリスト(令和7年度~)」
教育DXにAIを取り入れた実践事例
事例を自校に生かすときに見るのは、成果に加えて、誰が、どの場面で、何を目的に使ったかです。教職員の関わり方と実施後の課題まで見ると、自校で試す範囲を決めやすくなります。美方高校の実践は、授業内での使い方を考える際の参考です。「都立AI」の取り組みからは、学校全体で運用を見直す流れがわかります。
美方高校:AIとの対話を振り返りと理解度確認に活用
当社が支援した福井県立美方高等学校の高校1年生の情報科では、AIの基礎知識を学んだ後、「チャッともシンク」で学習内容を振り返り、クイズで理解度を確かめました。担当の先生は、振り返り用と理解度確認用の二つの生成AIについて、ふるまいと回答パターンを事前に設定しました。
この授業では、生成AIが授業のねらいに合う問いを返すように設定されています。生徒は生成AIと対話しながら、自分の言葉で学習内容を振り返りました。
同じ方法を試す場合は、振り返りで生徒に書いてほしい内容を授業前に決めておきましょう。実施後は、生徒の記述がどう変わったか、答えにくかった質問は何かを記録しておくと、次の授業で問いかけや生成AIのふるまいを調整しやすくなります。
授業の流れや先生が設定した内容は、福井県立美方高等学校の実践アイデアをご覧ください。
都立AI:授業・探究・校務を支えながら組織運用を改善
東京都教育委員会の「都立AI」は、授業の振り返りや探究学習での対話、校務の文書作成に使われています。生徒が使う授業と探究、教職員が使う校務では、利用目的と扱う情報が異なります。
ある高校で実施した高校3年生の「歴史総合」の授業アンケートでは、「生成AIの活用で思考が深まったか」に97%、「自分の考えを表現しやすくなったか」に92%( ともに「そう思う」「ややそう思う」の合計)が肯定的に回答しました。
全校への配備後には、学校間や教員間で利用頻度に差が生じました。その後も「利用者の声を踏まえた継続的な改善」と「活用促進の強化」を2本柱として取り組みを続けています。サービスを配備した後も、利用状況を見ながら運用を見直している事例です。
詳細は、東京都教育委員会『都立AI』の事例をご覧ください。
学習、校務、教育データをつなげる運用
学習、校務、教育データは、利用者や扱う情報が異なりますが、どの領域も教育DXの目的と校内ルールに沿って運用することが基本です。学校教育向けソリューション「tomoLinks(トモリンクス)」は、授業で使う生成AI、教職員が校務で使う生成AI、教育データの一元管理とAIによる分析・提案等可視化に対応しています。
児童生徒向けの「チャッともシンク」では、教員が授業ごとに生成AIのふるまいを設定できます。教職員向けの生成AIには、授業準備、アンケート集計、学級通信、翻訳などのテンプレートがあります。授業と校務の設定を、利用者と目的に応じて分けられる仕組みです。
機能と管理の仕組みは、生成AI活用支援機能のページでご確認いただけます。
教育DXにおけるAI活用の最初の一歩
まずは、学び方、教職員の働き方、教育データの使い方から、変えたい場面を1つ選びましょう。目的が決まったら、生成AIを使う人と場面を絞り、試行前後を比べる項目を決めておくと、その記録を授業や校務の改善に生かせます。次に広げる範囲も判断しやすくなります。
学習、校務、教育データのどこから始めるかを整理したい場合は、学校のICT環境と、変えたい授業、校務、データ活用の場面をお聞かせください。取り組む範囲と進め方を一緒に考えましょう。