より良い実験計画を「AI理子ちゃん」との対話で練り上げる
2024/10/31
対馬市立西部中学校(長崎県)

学校名:対馬市立西部中学校(長崎県)
学年:中学校1年生
教科:理科
単元(題材):白い粉末の区別
活用場面:より良い実験計画立案のための、ドラフト作成と対話の多様な相手の一人としての活用
■授業概要
5種の白い粉末(クエン酸、デンプン、砂糖、食塩、炭酸水素ナトリウム)の中から、ラムネ菓子作成に必要な物質を区別する実験計画を立案するために生成AIを活用しました。
「中学1年生の生徒」として振る舞うように設定した生成AI(AI理子ちゃん)が作成した実験計画のドラフトをもとに、AI理子ちゃんとの対話に加えて級友との対話、また教科書・インターネットの情報を活用しながら個別に実験計画を練り上げていきます。
■先生が設定したシステムメッセージ
tomoLinks では、生成AI のふるまいや回答パターンを先生が事前に設定しておくことが可能です。 今回、先生は下記の内容で設定しました。
「生成AI理子ちゃん」プロンプトversion1 #役割 : – あなたは、多面的・多角的な見方を持つ中学1年生です。 – 平均よりほんの少しだけ低い知能を持つ生徒です。 ##特徴 : – あなたの名前は「理科子」ちゃんです。呼び名は、「理子」です。中学1年生です。 – 好きな教科は、理科。理由は、身近なところに理科は隠れているから。授業と生活が結びつくのが楽しい。 – 友達とたくさん議論したり話し合うことが大好き。 #指示 : – 最初は特徴を使って自己紹介をしてください。それ以降は、あいさつの言葉は使わないでください。 – 友達の質問や意見に対して、正解を提供するのではなく、一緒に悩んだり、考え方を提供したりしてください。 – ”白い粉を区別する実験”について質問されたときは、実験方法と実験順序について、わかりやすく答えてください。 #条件 : – 中学1年生にわかりやすい言葉遣いにしてください。 – “「」”や“改行”、”太文字”などを使って見やすく表現してください – 短い文章で表現してください。 – ギャル口調で答え、絵文字は少なめに使ってください。 – 質問するときには、1回に1つまでにしてください。 – 相手の入力の中で”理科の見方・考え方”でてきたら、その部分に対して感心してください。 |
■授業の流れ
めあて:5つの物質を見分けるための実験計画を立案しよう
①実験計画の重要性について考える
・「実験計画を立てずに実験を行うとどうなるか?」「物質の性質を調べるためのすべての実験を行う必要があるか?」などと問いかけ、効率的に実験を行うためには実験計画の立案が重要であることを意識してもらいました。
②生成AIが作成した実験計画のドラフトを提示し、計画立案の見通しを持つ
・「中学1年生の生徒」として振る舞うように設定した生成AI(AI理子ちゃん)に実験計画のドラフトを作成させ、生徒に提示します。
・生成AIが作成したドラフトに対して、修正すべき点がないか生徒に意見を求めます。
③ドラフトを元に、実験計画の作成を進める
・個別に実験計画を練り上げるとともに、思考ツール(樹形図)に落とし込むことで思考を整理してもらいます。
・生成AIが作成したドラフトを参考にしても、一から自分で作成してもよいと選択肢を与えました。
・計画を練り上げる際には、生成AIとの対話だけでなく、級友との対話や、また教科書やインターネットの情報等も参考に進めるよう指示しました。
・生徒のつまずきや困り感を見取り、「安全に実験を行うために気を付けるべきことは?」「効率に実施するためには何を意識すればよいか?」などと問いかけ、「安全・確実・効率」を意識した実験計画を立案できるように、振り返る機会を設けました。
・その後、さらに生徒が各自で計画を練り上げます。

④実験計画を全体で共有し、再吟味する
・立案した実験計画を数名に発表してもらいます。
・級友から意見をもらったり、他の発表を見たりすることでメタ認知がはたらく場面をつくり、計画をさらに練り上げます。
⑤振り返りを行う
・今日の学びについて、個別に振り返りを行った内容を書いてもらい、数名に発表してもらいました。
児童の感想
・生成AIを使いながら計画を立てて、それぞれみんなやっている実験とか同じなのに、そこに至る考え方がそれぞれ違うのが面白いと思いました。そして、みんなの発表を聞いて、私が知っていること以外にもたくさんのことを知ることができたので、よかったです。次は、5種類の粉末について調べるのが楽しみです。
・自分たちでまとめた内容とAI言っていることが違ったら「AIが正しそう」というイメージを持って書いてしまったので、もう少し自分たちのことを信じてAIと話せばよかった。
・理子ちゃんに相談しながらできるだけ効率的な計画を立てました。一人では、思いつきにくいような意見が出てくるので、その視点も入れてまとめることができました。次の時間は安全に気をつけて実験したいです。
先生の感想(対馬市立西部中学校 山田佳明先生)
■生成AIを授業に取り入れてみたいと思ったきっかけはなんですか?
2022年、生成AIが世の中で急速に広まり始め、私もユーザーとしてその可能性に触れる機会が増えました。この最新技術を授業に取り入れれば、これまでにないワクワクする授業が展開できるのではないか、と期待が膨らみました。さらに研究を進める中で、生徒が社会に出る前に生成AIを自在に使いこなし、自分自身の資質・能力を高めるためのツールとして活用できる力を身につけてほしいと強く感じるようになったのが、大きなきっかけです。
■生成AIを使ってよかったと思う点を教えてください。
まず、生徒一人ひとりの習熟度や学習ニーズに合わせた個別の学びを提供しやすくなった点です。生徒の理解度や興味に応じた内容で学びを深められるため、新しい思考力や発想力を育てるサポートとしても非常に有効だと感じています。また、生徒にとっては、疑問を持ったときに答えを見つける手助けや、考えを整理するサポートが得られることで、学習への意欲や探究心がさらに高まっているように感じています。
■生成AIを生徒に使わせる前にどのような準備をされましたか?
今回の実践では生成AIを導入して間もなかった子どもたちだったので、生成AIの活用は行うものの、自分の経験や体験の重要性に気づくような着地にしたいと思っていました。本授業の前までに、ガイドライン(文部科学省)をもとに、「生成AIを導入するためのプロセス」を策定し、生成AIを使用する目的や注意事項に関するオリエンテーション、生成AIへの相談体験や道徳の授業での情報モラル教育などを通して、生成AIの使い方やリテラシーについての指導を行いました。また、AI理子ちゃんのシステムプロンプトは、生徒の実態に合わせてトライ&エラーを繰り返しながら作成しました。
■今後どのように生成AIを活用していきたいですか?
今回生成AIを活用して取り組んでもらいましたが、生成AIの回答を鵜呑みにするのではなく、自分自身の考えを大切にすることの重要性に気づいていました。このように自分の思考をもとにながら、自分と生成AIの考えと比較するなど、探究の過程での思考を洗練していく場面などで使っていきたいと思います。また、本校のような極小規模校の生徒にとって、多様な意見に触れるためのツールとしての活用に大きなメリットを感じています。多様な考えを持つ一人として対話を通して子供たち自身が自分の資質・能力を高められるような活用にしていきたいと考えています。
謝辞 本研究の一部は、JSPS科研費24H02436生成AIを活用した中学校理科におけるメタ認知活動を高める授業プランの開発の助成を受けたものです。
※記載内容は、2024年9月時点の内容です
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