【セミナーレポート】教員不足と個別最適な学びにどう応えるか ― 生成AI活用の可能性
2025/09/10
2025年6月に開催された本セミナーでは、「教員不足」、「特別な支援を必要とする児童生徒の増加」、「個別最適な学びのニーズ」といった教育課題を取り上げ、生成AIが教育現場にもたらす可能性について、大学研究者・自治体・企業がそれぞれの立場から最新の知見や実証事例を紹介しました。
本セミナーでは、教育委員会や学校関係者の方に向けて、生成AIをどのように活用すれば学習支援や教員負担の軽減につながるのかを整理し、今後の実践に役立つヒントをまとめました。
■ セミナー開催概要
タイトル:「教員不足・学びの多様化にどう応えるか?生成AI×教育のリアルな可能性と挑戦」
配信期間:2025年6月24日(火)~7月31日(木)
配信形式:オンデマンド配信
視聴対象:全国の教育委員会および自治体職員、教職員の皆様
主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)
共催:日本教育工学協会(JAET)
協賛:コニカミノルタジャパン株式会社、日本マイクロソフト株式会社
後援:文部科学省、総務省、経済産業省、デジタル庁
登壇者:
・京都教育大学教育学部 教授 黒田 恭史 氏
・群馬県教育委員会事務局 総務課 学びのイノベーション戦略室 デジタル教育推進係 副主幹 末 康宏 氏
・日本マイクロソフト株式会社 石山 将 氏
・コニカミノルタジャパン株式会社 松末 育美
セミナーご案内ページ:https://bs-offers.konicaminolta.jp/tomolinks/webinar/202506
■ 主催者挨拶
冒頭に、一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC) 会長・山西潤一氏より開会の挨拶がありました。山西氏は、同会が教育DXを推進するために行っている5つの取り組み(※1)と、これらの活動に関連する今度の行事・イベントを紹介しました。
※1 1.国内外の調査研究、2.ICT活用の普及促進、3.情報活用能力の育成、4.国や自治体への提言・提案、5.教育産業の健全な発展促進
また、本セミナーのテーマである「生成AI×教育」について、文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(ver2.0)」の内容に触れ、「今後は、生成AIを上手く使いこなす子どもたち、先生の事例が増えていけば良い。今回のセミナーでも具体的なお話や最新の活用事例が紹介されるので、有意義なセミナーになることを期待しています」と締めくくりました。
【基調講演1】AIの活用により学習伴走はどこまで可能となるのか
登壇者:京都教育大学 教授 黒田 恭史 氏
次期学習指導要領では、不登校や外国籍の子ども、特別な支援を必要とする子どもなど、ますます多様化する個別のニーズへの対応が重視されています。黒田氏はこうした状況の中で、AIの活用が新しい解決の糸口となり得ることを強調。講演では、教育現場が直面している課題を具体的なデータとともに紹介しました。
| ●不登校の児童生徒の増加: 2023年度には小学生で約13万人、中学生で約22万人が不登校となり、2020年度から2023年度の3年間で2倍以上に。 ●長期欠席児童生徒の増加: 病気や経済的理由を含む長期欠席児童生徒を含めると、小学生で約22万人、中学生で約27万人にのぼる。 低学年で不登校となり、そのまま長期化する子どもが増加している。 ●外国籍児童生徒の増加: 日本語指導を必要とする子どもは約6万9千人にのぼり、過去11年間で約2.1倍に増加。 |
黒田氏は現状を指摘した上で、「これからのICTによる教育支援は、授業内での効果的な活用にとどまらず、不登校や外国籍児童、院内学級、自由進度学習に取り組む子どもたちまでを含めた、より包括的な支援へと広げていく必要がある」と述べました。
さらに、ICTの教育利用の歴史に触れながら、「思考の内在化」、「思考の外在化」、「思考の並走化」、「学習分析・支援」の4つの構想について説明。「これからのICT教育利用は、4つの構造を意識しながら、学習伴走の中で個別・協同を問わず一人ひとりに合わせたテーラーメイド支援を実装する時代が来た」と述べました。生成AIを“学習伴走”として活用する重要性を提示し、具体的な取り組みとして、次の2つの事例を紹介しました。
・顕在型学習伴走(生成AIアバター)
コニカミノルタと共同開発した黒田氏の知見を学習した「AIアバター」を紹介しました。
一般的な生成AIが「円の面積は?」と問われれば「πr²」と即答するのに対し、AIアバターは児童の理解度に応じて、小学生であれば算数用語に変換し、また「なぜこの式になるのか」をかみ砕いて対話的に解説。子どもが「わからない」とつまずいたときにも、伴走しながら学習を支援します。
不登校児童の自宅学習においても、学習の手がかりや「支えてくれる存在」を感じられる可能性があると説明しました。
・潜在型学習伴走(リアルタイム多言語翻訳)
授業中の日本語をリアルタイムで翻訳し、外国籍児童に母語と日本語を併記して提示する取り組みを紹介。
大阪府立桜塚高校ではネパール語、愛知県豊田市の保見中学校ではブラジル語・ポルトガル語で実践され、日本語授業への参加度や理解度が向上しました。日本語と母国語を両方表記し、文字表記だけでなく音声出力にも対応することで、学習への橋渡しとなることが確認されました。
黒田氏は最後に「不登校児童や外国籍児童の増加は今後さらに進む。そういった子どもたちへの支援を具体的に行う必要がある」と述べ、「AIによるアバター(顕在型学習伴走)や、リアルタイム翻訳システム(潜在型学習伴走)は一人ひとりのテーラーメイド支援を実装することができる。こういったシステムを上手く使いながら、多くの子どもたちの学習を支援し、すべての子どもがより良い学びができる学校の在り方を考えていく必要がある」と締めくくりました。
【基調講演2】自治体の取り組み事例 – 群馬県教育委員会
図工・美術における実証の手応えと課題
登壇者:
群馬県教育委員会 総務課 学びのイノベーション戦略室
デジタル教育推進係 副主幹 末 康宏 氏
群馬県教育委員会では、2024年度に図工・美術を対象とした生成AI活用の実証を実施しました。授業支援型の生成AIの活用により、図工・美術の授業で目指すべき姿の実現に向けて、教員を支えながら子どもに「問いを持たせる」支援ができるかという点を検証。実証の中で重視した点は下記の2点です。
●安全・安心の確保
教育現場における配慮事項などAIが回答すべきではない内容をリスト化し、生成AIへの指示文としてあらかじめ入れ込んでおくことや、判断はAIに任せるのではなく子どもたちが行うといったルールを導入。また技術的対応としては、Microsoft社のAzure OpenAI、コニカミノルタ社のtomoLinksを活用し、再学習の拒絶、安全なログ管理・監督、コンテンツフィルタを実装しました。さらに取り組み全体の視点として、ELSI(※2)のアプローチを取り入れながら実証を行いました。
※2 ELSI:新しい技術を導入する際に、論理的・法的・社会的に受け入れられる設計を行うための考え方
●学びを促す設計
学習指導要領で示されている「図画工作・美術科が目指す資質・能力」を身につけるために、人間が感じるプロセスを生成AIがどう支援するのかという部分を追求。美術の指導主事や授業者・開発者・専門家と連携して授業・場面ごとによりよい学びの姿を具体化・言語化し、プロンプトの調整を行いました。こうして作成したプロンプトを用いた実践を行い、生成AIが資するケースを幅広く探しました。
実践事例:『ひまわり』の鑑賞授業
中学1年生のゴッホの『ひまわり』鑑賞授業で、生成AIを活用し、作品の印象や作者の意図を考察しました。AIから「どこに目を引かれた?」と問い、生徒たちは「枯れている花が印象的」「黄色と緑の統一感がある」などと回答。生徒の回答に対してさらに深堀りをする質問を生成AIが行うことで、生徒は自身の感性を言語化することができました。
また、教員はAIの支援に合わせて、生徒が見落としがちな部分に気づくように問い直し、学びを深める役割を果たしました。ある生徒が「感動した」と答えた時、別の生徒が流されそうになるシーンがありました。そこで教員が介入し、「本当にそう思った?」と問い直すと、生徒は改めて絵を見て「花びらがしおれていることに気づいた」と新たな発見につながりました。
末氏は、現時点で図工・美術における生成AI活用のフィージビリティーは限定的であるとしつつ、「教員の専門性の重要性」が改めて浮き彫りになったと述べました。また、実証を通して、プロセスのモデル化や再生利用可能なコンテンツの制作、新しいユースケースの発見などの成果を得たと報告。「生成AI自体の可能性は広がるが、今回の講演では新しいツールを教育としてどう捉え、受け入れ、活用するかという観点でお話しました」と締めくくりました。
【最新事例】教育機関における生成AIの必要性と最新事例のご紹介
登壇者:日本マイクロソフト株式会社 石山 将 氏
「AIスキルがなければ採用しない可能性がある」と答えた企業経営層が6割を超える調査結果が紹介し、社会でAIスキルが必須化している現状を提示。また、教育分野における生成AIは業務効率化にとどまらず、個別最適な学びの提供や教員負担の軽減につながると説明し、国内外の2つの事例を紹介しました。
・海外事例:
ニューヨーク市教育機関での導入事例。
社会全体のAIへの期待に教育がどう応えるかを示すものであり、国や自治体にとっても参考になります。
・国内事例:
渋谷区教育委員会での導入事例。
校務に生成AIを導入し、令和6年から令和7年2月までで約3,027時間の業務削減を実現しました。
最後に「生成AIは“導入するかどうか”ではなく“どう活かすか”が問われる段階にある。Microsoft社として単なる技術提供にとどまらず、教育機関・パートナー企業と共に変革を進めるパートナーとして支援を続けたい」と締めくくりました。
【最新事例】「tomoLinks」と教育現場における生成AI最新実践事例のご紹介
登壇者:コニカミノルタジャパン株式会社 松末 育美
学校教育向けソリューション「tomoLinks」の生成AI機能を紹介しました。tomoLinksでは文部科学省の「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン(Ver.2.0)」に準拠し、以下の3つのサービスを展開しています。
●教員用生成AI:
授業準備や学習記録の要約などの校務で活用できるテンプレートを搭載。先生の業務効率化を支援します。
●子ども用学習伴走型AI:
京都教育大学の黒田先生監修の伴走しながら学びをサポートする生成AI機能。個別学習や無学年での学び直しを支援し、ドリル教材と連携することも可能で、対話内容に応じたドリルをAIが提案します。
●子ども用チャッともシンク:
群馬県教育委員会での実践で活用いただいた、授業ごとにカスタマイズできる生成AI機能。
先生が事前に授業の狙いに合わせて生成AIのふるまいを設定。子どもたちはカスタマイズされたAIと対話することで、発想を広げたり思考を深めることができます。
茨城大学教育学部附属小学校での「学習伴走型AI」の実践事例を紹介。同校では児童一人ひとりの習熟度に応じた教材準備や、児童が自ら学びを進められる環境整備が課題となっていました。「学習伴走型AI」が、前学年の内容も含めて児童一人ひとりに最適な教材を提案したり、わからないことに対して考え方を丁寧にサポート。
また、教材に取り組むことで宝石を獲得できるゲーム要素が含まれているAIドリル機能を併用することで、子どもたちの積極的な活用にもつながりました。その結果90%の児童が「学習を楽しく感じられるようになった」と回答するなど、子どもの主体的な学びを引き出す効果が示されました。先生からも「AIのサポートによって教材準備や採点などの負担が大きく減り、子どもたちと関わる時間を増やすことができた」との声が聞かれました。
最後に「今後もコニカミノルタでは、AIと教育データを活用し、一人一のまなびを支えて、教育現場の課題の解決に貢献していく」と締めくくりました。
■ まとめ・生成AI実践事例のご紹介
本セミナーでは、大学研究者・自治体・企業がそれぞれの視点から、生成AIが教育現場で果たす可能性が紹介されました。これらを通じて、生成AIが単なる効率化の道具ではなく、子どもたちの多様な学びを支え、教育不足や個別最適な学びのニーズなどの構造的な課題に対応するための大きな可能性を持つことが示されました。
教育現場が主体的に生成AIを「どう活用するか」を考え、次の一歩を踏み出す契機となったセミナーでした。
本セミナーのテーマにも直結する、学校での実践的な取り組み事例を以下のページで紹介しています。実際に授業でどのように活用されているのか、授業の内容・進め方・活用のヒントをまとめていますので、ぜひご参考ください。
関連リンク
▼群馬県教育委員会 美術教育の教材共有サイト
https://sites.google.com/view/adc-gunma/generative-ai-order
▼tomoLinks 生成AI活用支援機能
https://tomolinks.konicaminolta.jp/service-001/