【セミナーレポート】教育データ利活用、どう進める?~自治体実践から整理するダッシュボード検討と実践のヒント~
2026/06/22
GIGAスクール構想の進展により、学校現場には学習ログや校務データなど多様な教育データが蓄積されるようになりました。一方で、「データをどのように指導改善や学習支援に生かすのか」「蓄積したデータを現場で活用しきれていない」といった課題も聞かれます。
本セミナーではこうした課題意識を踏まえ、自治体における実践を手がかりに、教育データ利活用や教育ダッシュボード検討を含めた取り組みの考え方と実践のヒントを整理。横浜市および美祢市教育委員会の取り組みを通じて、教育データを指導改善や学習支援にどのように生かしているのか、自治体それぞれの状況に応じた活用のあり方について、具体的な事例をご紹介しました。
セミナー概要
タイトル:教育データ利活用、どう進める?~自治体実践から整理するダッシュボード検討と実践のヒント~
配信期間:2026年3月18日(水)~4月30日(木)
配信形式:オンデマンド配信
視聴対象:全国の教育委員会および自治体職員、教職員の皆様
主催:一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)
共催:日本教育工学協会(JAET)
協賛:コニカミノルタジャパン株式会社
登壇者:
・横浜国立大学 大学院教育学研究科教授 兼 教育学部附属横浜小学校長 山本 朝彦 氏
・美祢市教育委員会学校教育課 主幹 渡壁 誠 氏
・美祢市教育委員会学校教育課 指導主事 谷 貞佑 氏
・コニカミノルタジャパン株式会社 ICW事業統括部 教育DX事業開発部 副部長
国立教育政策研究所フェロー/大阪教育大学客員准教授 片岡 靖
※所属部署名等は2026年3月時点の情報です。
セミナーご案内ページ:https://bs-offers.konicaminolta.jp/l/466361/2026-02-26/p6t7h
主催者挨拶
はじめに、一般社団法人日本教育情報化振興会 会長の山西 潤一氏より、主催者挨拶がありました。
山西氏は、次期学習指導要領改訂に向けた議論に触れ、「自らの人生、自らの学びを自分で過ごせる子どもたち」を育成する重要性を説明しました。
また、教育DXの推進においては、教育データを収集・分析・可視化し、一人ひとりの学びを支えることが重要であると述べました。
【基調講演①】教育データの活用による学びのプロセスの可視化と学びの質の向上
登壇者:横浜国立大学 大学院教育学研究科教授 兼
教育学部附属横浜小学校長 山本 朝彦 氏
■教育データ活用の基本的な視点
山本氏は、まず「教育データと言われた時に皆さんは何を思い浮かべるでしょうか」と問いかけ、教育データが教師にとって本当に役立つ情報になっているのか、また子ども自身も活用できるものになっているのか、必要なデータの検索機能など便利なものか、という視点が必要であると述べました。
その上で、教育データ活用において重要なのは、「何を人間が判断した方が効果的で、何を人間が判断した方が精度が高まるのか」を考えることであり、「あくまでもデータを活用するのは人」であると強調しました。

■ IRT型調査で見える学力の「伸び」
続いて山本氏は、横浜市で実施しているIRT型学力・学習状況調査を例に、教育データ活用の可能性を紹介しました。IRT型調査は、平均点ではなく学力レベルに着目し調査するため、児童生徒一人ひとりの学力の変化を経年的に把握できます。2021年と2022年の学力の伸びを示した中学校3年生の国語の結果からは、約7割の児童生徒に学力の伸びが見られる一方で、約3割の児童生徒が伸び悩んでいることが分かりました。また、どの学年でも同じ傾向にあり、学年が上がるにつれて全体の学力レベルも向上していることが確認されました。
さらに、国語と数学を比較した結果、国語の学力レベルは全体的に上がっているのに対し、数学では分布が幅広く学力レベルの低い生徒から高い生徒までいることが分かりました。山本氏は「算数・数学は積み重ねの教科であり、一度つまずくとそこから分からなくなる」という教師の経験値がデータによって裏付けられたと説明しました。
■学力を伸ばす学校に共通する特徴
学力の平均値と学力の伸びの平均値を比較した分析では、学力の平均値が高い学校だけが学力を伸ばしているわけではないことも明らかになりました。山本氏は、「学力の平均値に関わらず学力は伸ばすことができる」と説明し、「各学校で伸び悩んでいる約3割の子どもたちの学力をしっかり伸ばすことができれば、学力の伸びの平均値を高めることができ、どの学校でも取り組み次第で可能だ」と述べました。
また、全国学力・学習状況調査の質問紙とのクロス集計からは、児童生徒一人ひとりの良さや可能性を見つけて評価することや、話し合い活動を通して考えを深めたり広げたりすることが、学力の伸びと関連していることが示されました。さらに、実生活と関連付けた授業や大型提示装置等(プロジェクター、電子黒板など)のICT機器を活用した授業、児童生徒の主体性や合意形成を重視した学校ほど学力が伸びる傾向も見られたと報告しました。
これらの結果について山本氏は、「このように私たちが普段学校で取り組んでいる学力向上への努力がデータでも裏付けされたことが分かる」と述べ、学校教育目標や生徒の主体的な授業の実現など学校全体の取り組みが影響している説明しました。また、「真に活用できる教育データは その分析の仕方により教師の経験値を裏付けることができる」と強調しました。
■ 教育データを子ども理解につなげる
続いて、教育データが子ども理解につながる事例についても紹介しました。
IRT型学力学習状況調査のクラスごとの個人チャートでは、クラスのどの子が伸びてどの子が伸び悩んでいるか9年間にわたって経年で見ていくことが可能です。山本氏は、学力が伸び悩んでいる児童生徒について、「なぜ伸び悩んでいるのか」を教師が分析することが重要であると述べました。分析に当たっては、一人の教師だけで判断するのではなく、学年や関係する教職員が協力しながら分析することが必要だと説明しました。その結果、日本語支援が必要な児童、学習意欲が低下している児童、「褒められたい」「認められたい」という思いを抱えている児童など、一人ひとりがどのような原因で伸び悩んでいるかを多面的に理解することができると述べました。
こうした子ども理解につながる分析を学年研究会などで共有することが、教育データの有効な活用につながると説明し、学校によっては隙間時間の15分程度の短時間会議を実施しながら授業改善に生かしている事例も紹介しました。
■探究的な学びを支えるICT活用
後半では、「探究の基盤としてのICT活用」について解説しました。
山本氏は、探究的な学びを支える重要な観点として、以下の3点を挙げました。
・探究の学びの前の診断(アセスメント)
・学びのプロセスの可視化
・学びの評価としての履歴

また、国の中央教育審議会で議論されている情報活用能力の整理にも触れながら、今後は小学校・中学校・高等学校を通じた体系的な情報教育が求められると説明し、「どのような情報活用能力が必要とされているのか、どのように身につけていくのか、1人1人の教員が考えていく必要がある」と述べました。

山本氏は「探究の学びの中でICTの活用が質の高い深い学びをサポートするツールになる」と説明しました。特に個別最適化した学びと協働的な学びの一体化を図っていくためには1人1人の学びのプロセスを可視化していくことが欠かせないと強調しました。
■学びのプロセスを可視化し、振り返りにつなげる
これまで学習ノートや教師の観察記録に頼ってきた部分も、ICTを活用することで写真や動画を含めて学びを追っていくことができます。山本氏は、こうした記録は教師のためだけでなく、子ども自身が自分の学びを振り返るためにも活用できると説明しました。また、友達同士で共有し、互いに助言し合うことも可能になると述べています。「一斉学習でも、個別学習でも、1人1人の中に学びが成立しているかを確認しながら、その学びが協働的な学びの中でどのように変用し、さらにまた個別最適な学びの中でどのように深まっていくのか。探究の学びを可視化し振り返ることで自己の学びがメタ認知されていく」と述べました。

さらに、学ぶ速さや方法は一人ひとり異なるため、個々の興味・関心や得意分野を生かした学びを実現するには、それぞれの学びの道筋を記録し、振り返ることが重要だと指摘しました。

最後に山本氏は、横浜市の子ども用学習ダッシュボードでは、自分の社会情動的コンピテンシーの変容を経年で可視化することが可能になったことを説明しました。認知しづらくデータ化しにくい力についても今後はICTの活用により可視化されることで、子どもの学びや教師の授業力の向上につながっていくとの期待を示しました。
【トークセッション】横浜市 山本様×コニカミノルタ 片岡
続いて行われたトークセッションでは、コニカミノルタジャパンの片岡との対談形式で、山本氏の講演内容をさらに深掘りしました。教育データ活用を推進する際のポイントや学校現場の反応、AIへの期待などについて具体的な事例を交えながら紹介いただきました。
片岡:
多忙な教員にとってデータ活用の新しい仕組みが入ることへの抵抗感もあったのではないかと思います。横浜市でデータ活用を始めるにあたり、特に重視されたポイントについて教えてください。
山本氏:
私たちが1番に考えたのは、教育データが一人ひとりの教員にとって「使いたくなるものなのか」ということです。ダッシュボードを作ることで、かえって教員の負担になることも考えられます。まずは教員自身が「これは必要だ」「使いたい」と思えることがスタートだと考えました。そのため、どんなデータなら先生たちが使いたくなるのかを考えた時に、行き着いたのが「子ども理解につながるデータ」でした。子どもたちが何を考え、何に興味・関心を持ち、何に悩んでいるのかを理解することは教員の大きな役割です。そこに資するデータであれば、先生方は見たくなるのではないかと考えました。
片岡:
教育委員会によってはそのようなデータが集まっていない、もしくはデジタル化されていないケースもあるかと思います。横浜市がデータを収集される中で、工夫された点があれば教えてください。
山本氏:
大切にしたのは、「子どもの変容が見えること」と、「その変容が一人ひとりの個を見ていくことにつながること」の2点です。横浜市で学力・学習状況調査をIRT型に変更したのは、平均点に左右されず、小学校1年生から中学校3年生までの9年間を経年で追えるデータを作りたいと考えたからです。また、一面的な教科の学力だけではなく、体力調査の結果や学習履歴、ドリルの結果、さらには非認知能力とされる社会情動的コンピテンシーなども含め、多角的に子どもを理解できるデータが集まるダッシュボードにしました。
片岡:
IRT型調査によって見えてくることが多い一方で、多くの教育委員会ではそこまで踏みきれない状況もあるかと思います。その中で多くの自治体で活用できる全国学力・学習状況調査のデータを分析し、学校改善や指導改善につなげていくことも重要だと思いますが、その点についてどのようにお考えでしょうか。
山本氏:
全国学力・学習状況調査の質問紙調査には、子どもたちの生活面から学習面まで幅広い情報が含まれています。学力とのクロス集計を行うことで、学習の背景にある生活リズムや学習習慣なども見えてきます。そうした視点から分析していくことも非常に大切だと考えています。
片岡:
横浜市ではダッシュボードを導入し、教育データの活用を進められていますが、学校の現場からはどのような反応がありましたか?
山本氏:
導入当初は、「どのように活用したらよいのか分からない」「活用する時間が取りづらい」といった意見もありました。しかし、3〜4年継続する中で様々なデータが蓄積され、子どもの変容が見えるようになってきました。教師にとって1番の喜びは、子どもの成長の瞬間に立ち会い、その成長を一緒に喜ぶことです。その変容がデータでも見えるようになったことで、活用が進んできたように思います。また、分析のために長時間の会議を設定すると、かえって負担になります。授業前の10分や授業後の短い時間に、「なぜこういう反応だったのか」を振り返るなど、短時間でこまめに活用することが1つのヒントになると考えています。
片岡:
子どもの変容が見えるようになることで活用が進み、データを利活用することが横浜市の教育の文化として根付き始めているように感じました。やはりデータがあるだけでは活用できませんので、こうした成功体験が大切なのだと思います。またもう1点需重要な点として、講演の冒頭で「何を人間が判断した方が効果的なのか、精度が高まるのか」というお話がありましたが、人間が判断すべきポイントについてのお考えをお聞かせください。
山本氏:
データは、教師が子どもたちを成長させるための支援になるものだと思っています。教育の世界でも、経験や勘だけではなく、それらを支えるものとしてデータがあるというのが理想の姿だと考えています。ただし、データが全てではありません。データをもとに分析や議論を行いながらも、最後に判断するのは教師です。人の成長には、意欲や主体性などデータに表れにくい側面もあります。そうした部分を補完しながら最終的に判断を下すことが教師の役割だと考えています。また、IRT型のデータを活用した学校からは、「平均点は低くても学力の伸びは高かったことが分かり、自分たちの取り組みが無駄ではなかった、この方法でいいんだと思えた」という声もありました。こうした活用ができることが理想だと思っています。
片岡:
IRTを活用することで、先生方もこれまで取り組んできたことを評価し、改善につなげていけるという点が非常に良いお話だと感じました。どうしても絶対的な点数だけで比較すると学力の伸びが見えづらくなりますが、その子どもたちにどれだけ付加価値を加えられたのかを先生も児童生徒も共有できることは、学校での活動を評価する上でも大きな意味があると思います。一方で、先生方がデータを分析することは容易ではありません。最近はAIを活用した支援機能も出てきていますが、教育データ活用においてAIに期待する点があればお聞かせください。
山本氏:
AIは分析の速さや扱えるデータ量の面で、人間とは比較にならない力を持っています。そのため、分析の場面で大きな力になると考えています。ただし、AIに任せきりにするのではなく、データはあくまでも人が活用するものであるという姿勢が必要だと思います。
片岡:
最後に、これからデータ活用を始めていこうと考えている教育委員会の皆さまに向けて、何かアドバイスがあればお願いします。
山本氏:
今後は、予算などに恵まれた自治体だけが独自に進めるのではなく、基本的なダッシュボードやデータ活用の仕組みは教育委員会同士で共有していくことが重要だと考えています。その上で、地域の実情に応じてカスタマイズする部分と共有する部分を整理していくことが必要です。横浜市で培ったデータ活用のノウハウも積極的に共有しながら、何を共通化し、何を地域独自にしていくのかを考えていきたいと思います。データは母数が増えるほど精度も高まります。教育委員会同士が協力し、共同で取り組むことが、日本の教育のあり方を変える第一歩になると考えています。
片岡:
ありがとうございます。データ利活用は多くの教育委員会と連携しながら進めていく必要があると思っています。ご講演頂きありがとうございました。

【製品紹介】データ活用を支える次世代ダッシュボード構想
登壇者:コニカミノルタジャパン株式会社 ICW事業統括部 教育DX事業開発部 副部長
国立教育政策研究所フェロー/大阪教育大学客員准教授 片岡 靖
■教育データ活用における現場の課題
コニカミノルタジャパンの片岡氏は、教育データ活用の現状について説明しました。学校現場ではこれまでもデータを活用し、児童生徒の成績や取り組み方、日々の様子などを教員が観察・確認しながら指導に役立ててきたといいます。
一方で、GIGAスクール構想の進展により学習ログや校務データなど、多くの教育データが蓄積されるようになりました。しかし、「学校現場は忙しくて見きれない」「教育委員会としては施策判断に使い切れない」といった課題が生じていると指摘しました。
また、校務支援システムや学習ポータル、デジタル教材などにデータが分散していることで、「データを集約するのが面倒」「グラフを見ても何をしたらいいのか分からない」「データを分析したところで何の役に立つのか分からない」といった状況も生じていると説明しました。

■「可視化」から「判断支援」への転換
こうした状況を踏まえ、片岡氏は教育データ活用が新たな段階に入っていると述べました。デジタル庁の教育DXロードマップや文部科学省の第4期教育振興基本計画でも、データ活用の推進やダッシュボード整備が示されており、「データを集める段階から、データをどう判断と説明につなげるかという段階に移っている」と説明しました。
その上で重要になるのが、「ダッシュボードを“見るためのもの”で終わらせない」という考え方です。同社が開発を進める「tomoLinks次世代ダッシュボード」について、校務支援システムや学習系ツール、各種アセスメントなどの教育データを横断的に統合し、生成AIが注目すべき情報を提示する仕組みを目指していると紹介しました。
また、コンセプトとして「探さない、分析しない。AIが見るべきことを教えてくれる」を掲げていることにも触れ、「特定のベンダーやシステムに閉じた考え方ではなく、教育委員会として複数の教育データをどう判断につなげるか、そのための共通基盤を目指したものです」と述べました。

■AIによる判断支援の仕組み
片岡氏は、同ダッシュボードの仕組みについても紹介しました。まずAIが複数の教育データを分析し、注意が必要な状況を「気づきカード」として提示します。その後、判断材料が必要な場合はAIチャットを活用し、この事象の背景に何がありそうか、次に考えるべき論点は何かを整理すると説明しました。
この仕組みは、学校現場での児童生徒理解だけでなく、教育委員会における状況把握や施策検討にも活用できる設計となっており、「データを見るだけではなく、その次の行動へ移す支援ができる仕組みである」と強調しました。

また、安全面についても言及し、本ダッシュボードでは教育データや入力内容をAIが学習することはないと説明しました。さらに、教育分野におけるAIと教育データ活用について、国の実証事業などを通じて継続的に技術的・運用的なノウハウを蓄積しており、学校現場で安心・安全に利用できることを前提に設計していると述べました。

■tomoLinksが提供する教育支援サービス
講演の後半では、tomoLinksのサービス全体についても紹介しました。片岡氏は、tomoLinksは大きく3つのサービスで構成されていると説明しました。
1つ目は、「先生×AIアシスト(AIドリル・CBT機能)」や「学習伴走型AI」で、多様な児童生徒が主体的に学べる環境づくりを支援するサービスです。
2つ目は「生成AI機能」で、授業改善や業務効率化を支援します。文部科学省のガイドラインに準拠した環境のもと、安全に生成AIを活用できることを特徴としていると紹介しました。
3つ目は、学習eポータルを中心とした「授業支援機能」や「連絡帳機能」などです。各種アプリの管理・運用負担を軽減し、学校現場の業務効率化を支援すると説明しました。

講演では、教育データ活用における現場の課題から、AIを活用した判断支援の考え方、さらにtomoLinksが提供する各種サービスまで紹介されました。教育データを可視化するだけでなく、その先の意思決定や行動につなげる支援の重要性が示されました。
【基調講演②】少人数を活かした「個」のデータ利活用と教育DX~AIドリルと学力調査分析を融合させるtomoLinks導入~
登壇者: 美祢市教育委員会学校教育課 主幹 渡壁 誠 氏 / 指導主事 谷 貞佑 氏
■「少なさ」を強みに変える美祢市の教育DX
美祢市教育委員会は、美祢市の教育環境について説明しました。美祢市は児童生徒数の少ない自治体ですが、「人数が少ないからこそ一人ひとりに目が届く。一人ひとりに合わせたきめ細やかな指導ができる」と捉え、その強みを生かした教育を進めています。子どもが授業の主体者として学ぶことを目指し、「単元内自由進度学習」や「少人数に合う学び」を推進していると述べました。
また、子どもたちは学習形態や学習方法、学習する順番やスピードを自ら選択し、自己調整しながら学習を進めていると説明しました。教師は教室全体を見渡しながら、一人ひとりの学び方が適切かを確認し、必要に応じて個別に支援を行っています。加えて、小規模校では異学年による学び合いも取り入れられており、子どもたちの学び方に応じた柔軟な支援が行われていることを紹介しました。

■「一人ひとりの名前で語る分析」を目指して
こうした学びを支える上で課題となっていたのが教育データの活用でした。
美祢市教育委員会は、従来の学力調査分析について説明しました。学校単位や学年単位での傾向分析が中心で、「記述式が弱いから学校全体で対策する」といった大括りな対応になりがちだったといいます。しかし、同委員会は「○○さんの課題はここだ」「○○さんの強みはこれだ」といった、一人ひとりの子どもの名前で語れる分析を目指したと述べました。
そのため、美祢市では全国学力・学習状況調査や県独自の学力調査結果を経年で分析し、個々の成長を追跡する取り組みを進めてきました。また、市独自の確認問題も作成し、小学校3年生からの学習の定着状況を把握しようとしていたと説明しました。しかし、これらの分析は手作業で行う必要があり、「やりたいけれどうまくいかない」「それぞれがうまくつながらない」というジレンマを抱えていたと振り返りました。
その課題に対してtomoLinksでは、全国学力・学習状況調査や美祢市独自の確認問題を分析し、個々の成長や苦手としている内容を提示できると紹介しました。さらに、問題ごとの傾向も分析したうえでAIドリルの教材提案に反映されるため、個人の学力調査分析とAIドリルが一体化している点に大きな可能性を感じたと述べました。

■AIドリル活用で見えてきた課題
美祢市教育委員会は、これまでのAIドリル活用について、通常の学習を補完することはもちろん、単元内自由進度学習でも一定の成果があった一方で、現場からは課題も挙がっていたと説明しました。その課題は、「1問1答型」の形式に起因しており、学習意欲が高い子どもはどんどん学習を進められる一方で、学習に課題を抱える子どもは、「理解すること」よりも「正解して先へ進むこと」が目的化してしまう場合があったといいます。美祢市教育委員会は、選択肢を順番に押して正解を探すだけになっている児童の例を紹介し、「丸をもらってクリアすることが目的化してしまう」と説明しました。
また、教員側にも課題があったと述べました。子ども一人ひとりのつまずきや学習状況を把握するために教室を巡回したり、学習履歴を分析したりする必要があり、児童一人ひとりの学習への取り組みが異なる中で、教員が一人ひとりの学びをフォローするための物理的な作業が増えていたと説明しました。その結果、十分に支援したいという思いがあっても、子どもに任せすぎになってしまうという課題があったと振り返りました。
■学びの過程を可視化するtomoLinks活用
美祢市教育委員会は、こうした課題を受けてtomoLinksを導入したと説明しました。実証導入当初は戸惑いの声もあったものの、活用を続ける中で、紙のドリルに近いプリント形式の効果が見えてきたと報告しました。その効果について、「今までの1問1答から紙ドリルに変わって分析レベルが上がった。学力担当の副担任がついたような形」と表現しました。また、プリント形式では子どもがメモを書き込みながら問題に取り組むことができ、どのように解いたのかという思考の過程が残ると説明しました。その結果、自分の課題や間違いを振り返りやすくなり、「正解した」で終わらない学びにつながっていると述べました。

さらに、問題配信には「先生が出す問題」「AIが出すミッション」「子ども自身が選ぶライブラリー」の3つの仕組みがあり、学習指導要領で整理されている「知識・技能」「思考・判断・表現」「学びに向かう力、人間性等」にリンクしていることから、「子どもたちの学び方を評価する際にも非常に有効な材料になってくる」と説明しました。


また、自由進度学習との相性については、tomoLinksの「先生からのおうえん」機能に触れながら、「先生からのコメントやAIからのコメントがあることで、やる気を持ちながら自分の課題に向かっていける点で相性の良さがあった」と紹介しました。

■AIを「バディ」として活用する学びへ
美祢市教育委員会は、tomoLinksが単なるAIドリルではなく、「学びのポータル」として機能している点も紹介しました。ドリルだけでなく、動画教材や外部学習ツールとも連携し、子どもが必要な教材を主体的に選択できる環境を整えていると説明しました。
また、夏休み中の学習習慣の定着を目的にtomoLinksのAIドリルを活用し、定期的にドリル教材を配信した事例も紹介しました。「一気に学習をするのではなく、日々の学習習慣の定着につながった。教員にとっても夏休み後にまとめて確認する必要がなくなり、業務改善にもつながっている」とその効果を説明しました。

さらに、AIによるデータ分析は教員組織の課題解決にも寄与していると述べました。AIが客観的なデータを示すことで、若手教員でも「この子にどのような声かけが必要か」「次にどのような支援が必要か」を考えやすくなり、教育の質の保証や標準化にもつながっていると説明しました。
最後に美祢市教育委員会は、AIを「答えを教えてくれる便利な機械」としてではなく、「自分の力を伸ばすための良きバディ」として活用してほしいと語りました。困った時にヒントをくれたり、自分の弱点を教えてくれたりするほか、先生が忙しい時でも自分を支えてくれる存在としてAIを活用しながら、自ら学びを調整する力を育んでいきたいと述べました。そして、「小さな自治体だからこそできる子ども一人ひとりへの徹底した寄り添いを、tomoLinksというテクノロジーの力で実現していきたい」と今後の展望を語り、講演を締めくくりました。

まとめ
本セミナーでは、教育データ活用の意義や可能性、AIを活用した判断支援の考え方、そして学校現場における具体的な実践事例について幅広く紹介されました。
山本氏からは、教育データの分析によって教師の経験や実践を裏付けることの重要性や、児童生徒理解や探究的な学びの支援につながる可能性が示されました。
また、美祢市教育委員会からは、一人ひとりの子どもの学びに着目した教育データ活用やtomoLinksを活用した実践を通じて、教育データとAIが学びの質の向上や教員の支援につながる可能性が示されました。
教育DXの推進に伴い、今後は教育データの蓄積だけでなく、そのデータを現場でどう活用し、どのような行動につなげるかが問われます。本セミナーは、教育委員会や学校が教育データ活用を進める上での具体的なヒントを示す機会となりました。
本セミナーでご紹介しました、tomoLinksのAIドリル、AIダッシュボード機能は以下のページでご紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。