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大規模自治体でデータに基づく個別最適な学びを実現。「学力調査分析サービス」で“個”を見える化

2024/04/11

学力調査分析

大阪市教育委員会・大阪市立三国小学校

個別最適な学びを実現するうえで教育データの利活用が求められていますが、大規模自治体では児童生徒の膨大な量のデータ分析に頭を抱えています。関西を代表する大阪市はどのようにデータ分析を進めているのでしょうか。tomoLinksを試行として取り入れた事例を紹介します。

【課題】
● 学習データの分析が、学校単位の分析に留まっていた
● 学校・学年単位でしかデータ分析ができず、児童生徒一人ひとりの学習状況が見えづらい

【成果】
● 個人情報の取り扱いへの配慮など安心・安全な形で分析
●対象学年11万人分の膨大なデータを1か月半でスピード分析
●経年変化を含めた個人の学習状況や課題を見える化し、授業への反映や指導の個別化を実現できる可能性が見えた

個別最適な学びの実現に向けて児童生徒の学力データ分析は欠かせない

約277万人の市民が暮らす大阪市。市内には小学校281校、中学校127校、義務教育学校1校あり、約16万
人の児童生徒が学んでいます。そんな大阪市において、今求められている個別最適な学びを実現するためには何が必要でしょうか。

「児童生徒一人ひとりの学習データの分析が欠かせない」と話すのは、同市教育委員会事務局 総務部教育政策課 次席指導主事 家田志朗氏です。「個別最適な学びを実施していくためには、個人に落とし込んだ学力データの分析が必要だと認識していましたが、児童生徒16万人分の膨大なデータ分析は現体制ではむずかしく、今までは学校単位の分析に留まっていて、児童生徒一人ひとりの分析を始めたいと考えていました」と同氏。しかし、担当部署は人数も少なく、膨大なデータ分析にはスキルも必要で個人差が出てしまうことも課題だったといいます。家田氏は、「教育施策においてもEBPM※が重視されてお
り、データをしっかり分析することで次の施策につなげていきたいと考えています。しかし、その方法が見つからず、児童生徒のデータを十分に活かしきれていないと感じていました。そこで、民間企業のノウハウを活用してデータ分析を行うことを試行として実施しました」と語っています。

こうした背景から大阪市は2023年度にtomoLinks「先生×AIアシスト」の一機能である「学力調査分析サービス」を試行実施し、個別最適な学びの実現に向けて、教育データ利活用の取り組みを始めました。

※ EBPM(Evidence Based Policy Making)は、行政が持つデータなどを証拠( エビデンス)に政策立案をすること

大阪市教育委員会事務局 総務部 教育政策課 次席指導主事 家田志朗氏


経年データを把握することで教師の声がけも変わる

今回、大阪市は学力調査分析サービスを利用して、市内全小中学校の小学3年生から中学3年生までの過去4年間分のデータを分析しました。小学校は大阪市が行ってきた「大阪市小学校学力経年調査」のデータを、中学校は大阪府による「中学生チャレンジテスト」のデータを利用し、tomoLinksのAI分析を活用して約1か月半でデータ分析を行いました。

家田氏は分析結果について、「児童生徒の学習状況が一目で分かりやすく、分析内容や学習課題が把握しやすいと思いました。データ分析では、教師が理解できるように結果をどのように可視化するのかもむずかしいですが、tomoLinksのデータ分析ダッシュボードでは児童生徒一人ひとりの単元レベルでの強み弱みまでわかりやすい形で見える化されていると感じました」と語っています。

なかでも、家田氏が評価したのは、児童生徒一人ひとりの経年変化が可視化されている点です。今まで教師は受け持ちの児童生徒に対して、その年の成績は把握できても、過去の学習がどうだったのかを知ることはむずかしかったというのです。

「例えば、平均点を下回っている児童がいたとき、その子にとってはその点数が去年よりがんばった結果なのかもしれません。こういうとき、教師が経年変化をわかっていると、児童に対する声かけも『もっとがんばろう』ではなく、『よくがんばっているね』となります。逆にとても成績が良い児童の場合は点数が下がったとしても平均点より上回っていることが多いので、単年度の成績では課題を抱えていることに教師が気づきにくいこともあります」と、家田氏は教師が経年変化を把握する
重要性を指摘しています。

また家田氏は、学力調査分析サービスの結果のひとつに、来年に学力がどのように推移するのかを示した「成績予測」があるのも良いといいます。「ある生徒の例では、成績が2年連続で上がっているのに来年は下がるという予測が出ていました。通常なら成績が上がっているので問題ないと判断しがちですが、こうした成績予測があることで教師が、どの点に気を付けて指導すればよいかがわかります。しかも、復習すべき単元があると指摘されていて非常に有効に活用できるデータだと思いました」と家田氏は語っています。

教育委員会としてはこれらのデータを利活用し、各学校の学力を把握するのはもちろん、指導主事が学校訪問の際に教師にデータを見せながら、それぞれの児童生徒に対する個別の支援やアドバイスにも役立てられる可能性があるといいます。

「学力調査分析サービス」の結果(図はイメージ)。「成績推移」では児童生徒の今後の成績推移がわかる


一人ひとりの得意と苦手を把握。学習意欲の向上につながる声かけへ

大阪市立三国小学校で6年生を担当する井手本裕太先生にも学力調査分析サービスについて話を聞きました。

今回初めて教育委員会から学力調査分析サービスの試行版を提供された井手本先生は、児童・生徒別の成績推移がとても見やすかったとのこと。これまでは学年単位でしか分析できていなかったため、児童一人ひとりの分析データからそれぞれの苦手な部分が把握できたのはメリットだといいます。

「6年生なら3年生からの経年変化が反映されていたので、何年生のどの単元でつまずいたのかがわかり、とても参考になりました。学年を持ち上がりで見ている児童たちなら教師も把握できますが、これまで受け持っていなかった学年を担当する場合もありますので、そうした場合、昨年はどうだったのか、一昨年はどうだったのか、このようなデータを通して児童の理解につながりますね」(井手本先生)。

さらに同先生は「単元別 平均正答率の対全国比」がとても良いとコメント。「児童にテストの結果をフィードバックするときも、得意と苦手の両方を伝えられるのがメリットだと思います。教師から苦手なことばかり話されたら嫌ですが、得意なことも伝えながら、“もう少しこの部分をがんばればもっと伸びるよ”と話しかけることで、児童の学習意欲を高めることができると思います」と井手本先生は話しています。

「単元別 平均正答率の対全国比」(図はイメージ)では、全国平均の基準を1とした全国比がわかる

三国小学校ではこれまで、教育委員会から提供された学力調査の結果を基に、学校全体で平均点の比較等によって分析したり、問題の正誤率を学年ごとに教師が解釈したりするといった形でデータ分析を行っていました。この作業は例年2月中旬ごろに行われ、その後、2月末頃から学年全体が苦手とする領域に対してプリント学習や教科書で振り返りを行うという対策に留まっていました。井手本先生は今後の活用について、早いタイミングで一人ひとりの学習データが可視化されることで、例えば冬休みにデジタルドリルも活用して、児童生徒一人ひとりにあった宿題を出すといった使い方もできるのではないかと語っています。

大阪市立三国小学校 井手本裕太先生


データで教師の経験則を検証。授業改善や若手人材育成に生かす

井手本先生は学力調査分析サービスの結果について、「これまで担任として感じていたことが数値化、見える化された印象がありました」と語っており、自身の経験則や教師としての肌感を検証する機会にもなったようです。

「例えば、以前のデータ分析では、『国語の記述において平均よりやや弱い』という結果が出ていたのですが、学力調査分析サービスの結果では、『自分の気持ちや考えを書くことはできているが、資料から読み取って書くことが苦手』だと詳細に分析されていて、“やっぱりそうか~ ”と思いました。実は、私自身も児童をみていてそうではないかと経験則として感じていた部分だったので納得感がありました。と同時に、可視化されたデータは教師の感覚に近いものが数値化されていると思いました」と話しています。そうしたことから、今年で5年目になるという井手本先生は、分析結果を教師の授業改善にも活用できるといいます。これまでは日々の単元テストなどの結果をデータとして把握し、授業改善に活用してきたそうですが、学力調査分析サービスの結果は非常に詳細であるため授業に生かしやすいのではというのです。「分析データからは、『5年生のときに学習したこの単元を苦手にしている児童が多い』など詳細に分かるので、関連する新しい単元を6年生で学習する前に、5年生の振り返りを取り入れるなど授業に生かせると思います」と井手本先生。

教育委員会の家田氏も同じく、若手教師の人材育成にデータ分析の結果を利用できるといいます。ベテラン教師の授業や姿から学ぶことも大切ですが、具体的に何をどうすればいいのか、データを見ながら自己研鑽したり、指導に生かせたりするというのです。

「学力調査分析サービス」の児童・生徒別の結果(図はイメージ)


多様化する児童生徒たち。データ分析を通して学びへ還元

教育委員会の家田氏は、個別最適な学びの実現に教育データの利活用は欠かせないという考えを持ちつつも、現場レベルでは様々な課題や不安があるといいます。

ひとつは、児童生徒の個人情報の扱い。民間企業にデータ分析を依頼した場合、企業側がどのように児童生徒のデータを扱うのか、安全性が担保されているのかが気になります。その点、今回の場合は、大阪市とコニカミノルタで個人情報保護の契約を締結し、大阪市が提供する児童生徒の学習データは個人名ではなくランダムに割り振られた番号に編集し直してコニカミノルタに提供。個人が特定されない匿名化された状態でデータ分析が行われ、分析終了後はデータを破棄するという契約で進められました。

もうひとつ、家田氏は児童生徒のデータ分析や教育データ利活用について、管理職、現場の教師など立場や指導経験によって受け止め方が異なることにも理解を示しています。そもそも、テストの数値結果だけで児童生徒を判断できないという意見や、分析データの結果を渡されてもどのように活用していいのかわからないという教師の声もあります。しかし、その一方で、児童生徒の多様化が進んでおり対策が必要であると家田氏は強調しています。

「すべての教師がデータ分析の必要性を認識し、積極的に活用するには時間がかかりますが、子どもたちの置かれている状況は年々多様化しています。こうしたデータ分析を手段のひとつとして活用することで子どもたちに還元できるものは増えると考えており、授業や個別学習に生かしたり、先生方の言葉がけや支援の一つとして活用したりできることが考えられます」と語りました。

児童生徒の多様化に加えて、本格的な人口減少社会に突入し、教育現場もICTやデータを活用した教育の質向上が求められています。大阪市の取り組みが充実した個別最適な学びの一歩になるよう、今後の教育実践も注目されます。




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