生成AIは「学びの伴走者」、一人ひとりの子供たちに寄り添う活用をめざして
2026/05/29
大阪市教育委員会・大阪市立住吉小学校
個別最適な学びを実現する手段の一つとして、生成AIの活用が期待されています。
大阪市立住吉小学校では、tomoLinksの生成AI「 チャッともシンク」や「学習伴走型AI」を「学びの伴走者」として授業に取り入れ、一人ひとりの思考を深める授業づくりに挑戦しています。
大阪市立住吉小学校
大阪市の最南端である住吉区に位置し、1908年創立の長い歴史を持つ。各学年2学級、児童数328名の中規模校。令和5年度に文部科学省のリーディングDXスクールの指定校に選ばれ、令和6年度から大阪市の生成AIパイロット校に認定。「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実に力を入れている。
本校は、令和6年度から大阪市の生成AIパイロット校として認定を受け、tomoLinksの生成AI「チャッともシンク」の活用に取り組み、2年目を迎えました。開始当初は校内に慎重な意見もありましたが、次期学習指導要領の改訂を見据えたとき、従来の一斉授業に加えて、自由進度学習や自己調整学習など個別最適な学びを充実させていくことが重要と考え、取り組みに参加しました。
教員に対しては、生成AIは、「学びの伴走者として有効である」という考えや実践事例を共有し、「まずは使ってみよう」「合わなければ立ち止まればよい」という姿勢で一歩を踏み出しました。幸い、チャッともシンクは安全面にも配慮されており、授業中に不適切な使われ方をする不安が少なかったので、教員は安心して活用を始めることができました。
1年目は、まず教員がチャッともシンクを使ってから、全学年の児童が使うという順番で活用をはじめ、研究授業を公開しました。児童たちの反応はとても良く、授業で役立つことが分かると教員の方からも活用案が自然に出てきました。一度動き出すと広がるのは早かったです。
2年目は、個別最適な学びに特化した活用に挑戦しており、tomoLinksの「学習伴走型AI」を児童の個別学習に使うなど活用の幅を広げています。夏休みの課題では、選挙ポスターや作文などでアイデアを生成AIに問いかけながら思考を深める課題を設定しました。これまで、教員や保護者の手助けが必要だった場面において、生成AIが学習を支える新たな選択肢の一つとなり、児童が主体的に学べる環境づく
りに挑戦しています。
こうした取り組みを通じて、「生成AIは学びの伴走者となり得る」という手応えを感じています。例えば、作文の授業では、これまで教員はある程度書ける児童には自力で書かせ、書くことが苦手な児童を支援することがほとんどでした。しかしチャッともシンクを活用することで、書ける児童も自分の文章をAIに読み込ませて、表現を工夫しながらさらに思考を深められるようになりました。
実際に「修学旅行の思い出」を書いたときも、自分の経験やその時の気持ちを具体的に投げかけなければ、自分の書きたい文章にはならないことを理解し、プロンプトを工夫している姿が見られました。こうした様子から、生成AIは児童一人ひとりの思考に寄り添い、個別最適な学びに近づけられる可能性を感じています。
今後は、生成AIを活用して生み出された成果物や、活用を通じて児童にどのような力が身に付いたのかを、どのように評価するかが課題となっていくでしょう。また活用においても、児童が自分で学習を進めるための相談相手として使えるよう発展させていきたいと考えています。一方で、教員の生成AI活用も重要です。児童一人ひとりの意見を、教員が生成AIで分析や要約ができれば、全員の考えを生かした授業に近づくでしょう。児童と教員の双方が生成AIを活用する授業展開をめざしていきます。

田原健之介 氏
チャッともシンクを実際の授業で活用するにあたり、「どのような使い方が子供たちに効果的なのか」を検討するところからスタートしました。1年目は、大人が生成AIを使う場合と同じように、資料の要約や文章作成といった用途で活用しましたが、それでは児童の思考が深まらず、「大人と同じ使い方ではいけない」という結論に至りました。そこで、2年目は、学習プロセスのどこかにチャッともシンクを使うことで、児童が生成AIとやり取りし、これまでできなかったことが可能になるような授業設計に取り組みました。
例えば5年生の社会科では、「これからの食料生産」について考える授業で、農業に携わる人々にインタビューを行う活動にチャッともシンクを活用しました。これは、教員があらかじめチャッともシンクに、「農業に携わる人」としてふるまうよう設定を行い、児童たちが画面上で農業従事者にインタビューをするというものです。ふるまいの設定については、教科ごとにテンプレートが用意されており、授業準備は15分程度で行うことができました。この単元では「米農家」「みかん農家」「JA職員」など6種類の職種へのインタビューが可能となり、児童たちは多様な立場から食料生産について話を聞くことができ、真剣に取り組んでいました。

チャッともシンクに設定した「農業従事者」のプロンプト例
「日本の食料生産」について、小学5年生が勉強しています。
数字が入力されたら、その立場の人物になりきって児童のインタビューに答えてください。
まず自己紹介をして、質問が来たら、それぞれの立場で、具体的に、小学生にわかりやすく答えてください。
# 立場は以下の6人です。
1.庄内平野の米農家の五十嵐さん
2.水田農業試験場の中場理恵子さん
3.JAの営農指導員の佐藤さん
4.米問屋の野上さん
5.スマート農業を推進する会社の鈴木さん
6.環境計量士の田口さん
# 次の3つの条件を守ってやり取りしてください。
1.3年生までにならう言葉、漢字で答えてください。
2.聞かれていないことには答えないでください。
3.インタビューや質問内容が稲作や米、食糧問題と関係ない場合は、答えずに違う質問をさせてください。
チャッともシンクでふるまいを設定した「農業従事者」に児童がインタビュー。
生成AIが「米農家をはじめとしたさまざまな農業従事者」としてふるまい、児童たちからの質問に答えていく。
この活動で児童から最も多かった感想は「実際に大人にインタビューするよりも緊張しなかった」というものでした。また、質問の返答がすぐに得られて、文字で残るため見直しがしやすいという意見もありました。さらに外国籍の児童もいるので、日本語が得意ではない子にとっても内容が理解しやすかったようです。
ただし、チャッともシンクからの返答がどのような意味をもつのか、内容が合っているのかどうかは、事前に学習していなければ児童も判断ができません。そこで、AIによるインタビューの内容は、別途自分で調べた情報に新たな視点を加えるための資料として使うようにし、最終的に児童がプレゼンテーションにまとめました。自分が聞いた内容を自分なりに解釈して理解するような思考の深まりも感じられ、授業として手応えを得ることができました。
汎用的な生成AIの正確性についてはさまざまな意見がありますが、チャッともシンクに関しては、正確性がかなり高いと認識しています。児童にはファクトチェックが大切だと伝えていますが、実際は、生成AIの出力結果をファクトチェックする時間や能力は十分ではありません。その点で、チャッともシンクが出力結果の信頼性をある程度担保してくれていることは、教育現場において大きな価値があると感じています。
この2年間の活用の中で、児童から不適切な質問や言葉が投げかけられたときも、チャッともシンクは適切に制御し、学習が逸脱しないよう機能していました。さらに設定で「創造性と正確性の使い分け」も可能なので、例えば国語の物語の単元で児童たちの思考を広げたいときは、創造性を重視してあいまいな答えもするように設定。逆にしっかりした資料がほしいときは正確性を重視するよう設定しています。

得能健史 氏
住吉小学校のAI キャラクター「すみス」
tomoLinksの学習伴走型AIは、自治体や学校ごとに任意のAIキャラクターを設定することが可能です。住吉小学校では、児童会で作られた学校キャラクター「すみス」を設定し、児童の個別学習をサポート。好きな映画の話や、服装の相談など、児童たちが自由に会話をする姿も見られます。中には、学校の友達とはあまりしないような話を「すみス」に打ち明ける児童もいるといいます。
大阪市は、生成AIは社会インフラの一つとして確実に定着していくものだと捉えており、教育現場での活用も「遅れてはいけない」という危機感を持っています。ただし、やみくもに導入するのではなく、教育の中でどのように使っていくのかを整理したうえで、現場に伝えていくことが大切だと考えて
います。
その前提として、学習用端末やクラウドなどの「デジタル学習基盤」をベースにした学びがしっかりできていることが重要です。これらを日常的に使いこなしている状況があって、初めて生成AIの活用が意味を持つ。児童生徒たちもファクトチェックやハルシネーションといった特性を理解した上で、正しく活用できるよう情報活用能力を身につけていくことをめざしています。
大阪市の生成AIの取り組みは、令和5年度に文部科学省のリーディングDX事業に参加したことから始まりました。当初は校務利用や、教員が授業で使ってみせる活用が中心でしたが、実践を重ねる中で、「今後は児童生徒が生成AIを活用していくべき」との意見が上がり、令和6年度からは大阪市独自で「大阪市生成AIパイロット校」を指定し、児童生徒が活用する取り組みへと舵を切りました。これに伴い、大阪市教育委員会とコニカミノルタ株式会社で「AI等を活用した児童生徒の多様な学び等の可能性を探るための連携協力に関する協定」を結び、生成AIパイロット校でtomoLinksの「チャッともシンク」の活用を開始しました。令和6年度は4校(中学校3校、小学校1校)、令和7年度は3校(小学校3校)参加しています。
tomoLinksを選んだ理由のひとつは、小学生が自ら生成AIを安心して活用できるからです。AIにフィルターがかかっており、安全性が担保されていることは、小学校で活用を進める上で非常に大きなポイントでした。
公開授業などで子供たちを見ていますと、大人が想像するよりもスムーズに生成AIを活用しており、情報活用能力の育成や、情報モラルの面が育まれているのも伝わってきます。一方で課題もあり、特に低学年では、タイピングや音声入力の難しさから、日常的に生成AIを使うにはまだまだハードルが高いと感じました。
大阪市では、今後もパイロット校を中心に積極的に生成AIの校務利用や教育利用を進めていく予定です。小学校だけなく中学校の事例も増やしながら、情報活用能力などの資質を育み、学びが深まるような生成AIの活用に取り組んでいきたいと考えています。


橋本 航 氏
「教育現場のためのAI導入&活用ガイド2026(インプレス刊)」掲載
※記載内容は、2026年3月時点の内容です。
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