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データで授業を分析する「授業診断サービス」で持続可能な教員育成と児童生徒の深い学びを追求

2024/05/31

授業診断

横浜市教育委員会・つつじが丘小学校・横浜市立老松中学校

学校現場は今、教員の働き方改革など様々な課題を抱えており、従来と同じ方法で授業改善を進めることが難しくなっています。 横浜市ではその危機感からtomoLinksの「授業診断サービス」を活用。 データを活用した効率的な授業改善に取り組み始めました。

【課題】
● 働き方改革や教員不足などの課題が深刻化し、従来の方法で授業改善を継続するのは難しい
●「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて、根拠となる客観的なデータが求められている

【成果】
● 教員の経験や勘で積み重ねたことをデータで数値化、経験の浅い教員の育成に有効
●「よい発問 」や「思考の時間 」についての意識が高まり、深い学びを考え直すきっかけに

教員にとって最も大切な『授業力 』。従来の授業改善の方法は見直す時期にきている

働き方改革、ベテラン教員の大量退職、教員のなり手不足など、教育現場は今、人材育成に対して様々な課題を抱えています。 このような状況の中で、これまでの教育を維持し、さらなる質の向上をめざすためには、あらゆる面において従来のやり方を見直すことが求められています。

すべての教員が取り組んでいる「授業改善 」もそのひとつです。 横浜市教育委員会事務局 学校教育企画部 教育課程推進室長 山本朝彦氏は、「教員にとって最も大切な『授業力 』を伸ばしていくためには授業改善や授業研究が欠かせませんが、令和の今は教員不足や働き方改革の問題もあり、今までと同じようなやり方では難しくなってきました。 従来の方法を組織として変えていかなければ、これから先も教育の質を維持できないと考えています」と語っています。 これまで横浜市は、授業研究を学校や近隣の小中学校のブロック、研究会などの単位で実施。 教員が自分の授業を録画したり、書き留めた記録を分析したりといった方法で取り組んできましたが、作業や分析に時間がかかることや教員間に取組の差ができてしまうことが課題だったといいます。

さらに山本氏は、学校現場が模索している「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けても、今の授業改善のやり方を変えていく必要性を指摘しています。「『主体的・対話的で深い学び』をどのように捉えるのか。 主体的な子どもの姿を何で捉えるのか、何を根拠に対話的な授業だったと捉えるのか、これからは客観的なデータを活用した授業改善が必要ではないかと考えました」と語っています。 そこで、横浜市は2023年度に小学校と中学校で1校ずつ、tomoLinksの「授業診断サービス」を活用した授業研究を開始しました。

「様々なサービスを試しましたが、tomoLinksの授業診断サービスは、教員や児童生徒の発話比率や発話量がグラフで表示されたり、挙手人数などもデータで可視化されたりと非常に新しいと思いました。『主体的・対話的で深い学び』を分析するのに資する可能性を感じました」と山本氏は語っています。

横浜市教育委員会事務局 学校教育企画部教育課程推進室長 山本朝彦氏


教員の経験や勘で積み重ねたことをデータで裏付け。経験の浅い教員の人材育成に

tomoLinksの「授業診断サービス」は、コニカミノルタの専門スタッフが学校に赴き、教室にカメラとマイクを三脚で設置して1時間の授業を撮影し分析するというものです。 分析結果では、「発話比率 」「挙手人数 」「視線低下率」のそれぞれの時系列推移と「机間指導の動線」などが解析され、どんな時間配分でどのように学習活動を進めたのか、また児童生徒の挙手や発言量がどのように推移したのかなどがデータで分かります。

「授業診断の当日は、教室にカメラを設置するので準備に時間がかかるだろうと思っていたら、コニカミノルタのスタッフも少なく、短い時間で準備や撤収をしていました。 学校は他にも授業をやっていますので、セッティングや片付けに時間がかかるようでしたら実施は難しいと考えていましたがtomoLinksの授業診断サービスはスムーズに進められました」と山本氏は語っています。

一方で、このように授業をデータ分析することについては、教員の捉え方も異なり、様々な意見や不安もあります。 これについて山本氏は、「教員が今まで培った経験や勘を否定したり、それがデータに置き換わったりするものではありません」と話しています。 どちらかといえば、今まで教員が経験や勘で積み重ねたことに対してサポートや裏付けとしてデータを活用していきたい考えです。

特に、経験の浅い教員の人材育成においてデータ活用は有効だと山本氏。「児童生徒の理解やよい授業とは何かという点について、今までは教員の経験や勘に裏付けされている部分があり、先輩教員から見て学ぶという文化がありました。 しかし、令和の今は教員不足でもあり、経験の浅い先生方が自己研鑽していくことを考えた時、今までのやり方は持続可能ではありません。 児童生徒がどういう状況で、どのような学習の仕方をしているのか、教員の主観的な視点だけでなく、データなどの客観的な視点を取り入れながら、授業研究を進めていけるようにしたいと考えています」と山本氏は語っています。


「思った以上に教員が話していた」数字で見えた授業の改善点

横浜市立つつじが丘小学校では、教員歴14年の山田薫先生が授業研究でtomoLinksの授業診断サービスを利用しました。 山田先生はこれまで、授業の板書を記録したり、タブレット端末で自分の授業を録画したりと、様々な手法で授業改善に取り組んできましたが、録画を見返す時間もかかり、また振り返りや分析が難しく1人で効果的に授業改善を行っていくことに限界を感じていたといいます。 授業診断サービスについては、「自分の授業を分析されることの抵抗感もなく、むしろ、データとして数字で見られることに大変興味を持ちました」と山田先生。 授業診断の当日も、カメラを意識することなく、いつも通りに授業を行えたようです。

山田先生が行ったのは3年生算数の「長いものの長さのはかり方と表し方 」の単元。 分析結果について山田先生は「一番衝撃だったのは発話比率です」とコメント。「私自身は授業であまり話をしていなくて発話比率はもっと低いと思っていたのですが、結果を見ると教員が44.8%で、児童が51.5%。 思った以上に教員が話していたなと思いました。 また、私が動いた移動の軌跡を見て、こんなにも無意識に教室の前を歩いていたのかと気づきました。 これを見て、本当に後ろの席の児童をサポートできていただろうかと振り返るきっかけにもなりましたね」(山田先生 )。

横浜市教育委員会 教職員人事部 主任指導主事の大平はな氏は発話比率について、「山田先生に関しては、ただ教員が話をしているのではなく、教員が児童に思考を促すような問いかけを多くしていることも分析結果から分かったのがよかったです。 この辺は経験の浅い先生が見た時に大変参考になるでしょうね」と話しています。 また、分析結果では、板書など先生の行動がどのように児童に影響を及ぼすのか、一目で分かるのがいいと大平氏。「授業改善というと、授業動画を自分で見返して、ここがよかった、ここで子どもたちが静かになってしまったなど主観的な分析で終わりがちですが、tomoLinksの授業診断サービスでは教員の働きかけが、児童にどのような影響を与えたのかが分かるので、先生方も改善点が見つけやすいと思います」と大平氏は語りました。

横浜市教育委員会 教職員人事部 教職員育成課育成係 学校教育企画部 教育課程推進室 兼務 主任指導主事 大平はな氏(左)、横浜市立つつじが丘小学校 山田 薫先生(右)


実際、山田先生もこの授業研究を終えてから、「どういう発問をしたらよいかを、より考えるようになりました」と語っています。 具体的には「イエスやノーで答えられる質問もあれば、自由に答えるオープンクエスチョンのような発問もあります。 ただ、広げすぎてしまうと児童が焦点化できなくなるため、どういう問いかけが児童の思考を深めるのかを考えるようになりました」と山田先生。そうしたことを意識するようになって以来、児童も少し変わり始めたように感じるといいます。 山田先生は「理科の実験で失敗した時に、なぜそうなったのかをもう1度考える姿が見られるようになりました」と語っており、教員の適切な発問で児童の思考が深まっていることを伺えます。

山田先生が行った授業診断サービスの分析結果「挙手人数」」「下向き度合い」「机間指導」「板書」などがグラフ化されている

「授業診断サービス」で山田先生の机間巡視の軌跡を時間推移で記録したもの。移動軌跡が赤いドットで表され、机間指導でどのエリアにどの程度いたかもグラフ化される


「深い学び」を考え直すきっかけに必要なのは生徒が思考する時間

横浜市立老松中学校では、社会科 石井大介先生が中学1年生の授業研究でtomoLinksの授業診断サービスを利用しました。 教員歴11年目の石井先生は最初にこの授業研究の話を聞いたとき、授業を数値化することに少し抵抗もあったようですが、様々な観点で授業改善ができることに次第にメリットを感じるようになったといいます。
「授業改善は、今まで感覚的に行っている部分があったのですが、自分の授業を数値化することで、経験の浅い先生方に“こういう形でやればいいよ”と説明がしやすくなると思いました。 本当は教員同士が授業についてゆっくり話をする機会をつくるのがよいのですが、今は働き方改革もあってそういうわけにはいきません。 そうした時にデータとして形に残しながら、新任や経験の浅い先生に多様な視点で授業を説明できるのはよいと思います」(石井先生 )。

石井先生が実施した授業のテーマは、「EUに加盟すべきか、それとも非加盟でいるべきか」を考える学習。グループで話し合ったり、個人で考えたりと生徒たちが思考をどれだけ深められるかが授業のポイントです。分析結果について石井先生は、山田先生と同様に「自分のイメージでは、生徒の発話がもう少し多いと思っていましたが、自分の方がよく話していますね」とコメント。 学習のねらいや内容によっては、教員の発話比率が高くなってしまうこともありますが、授業展開の中でデータとして振り返りができるよさがあるといいます。

また石井先生は、自分の授業を客観視できたことで、深い学びについてもう一度考えるきっかけになったと話します。「分析結果のグラフを見ると、一見生徒たちが活発に交流していて元気でよい授業に見えますが、最後はもっと個別の時間を作ればよかったと気づきました。

生徒がいろいろな意見を受けたうえで思わず黙って考え込んでしまうような思考の時間を作れたら深い学びにつながったのではないか。 そんなことを考えます。 話し合ったりすることだけじゃなく、生徒がじっくり考えていたりすることも主体性の表れであり、そういう『無音の時間 』をもっと作っていきたいとデータを見て感じました」と石井先生は語っています。

tomoLinksの授業診断サービスを通して、それぞれの先生がデータから改善点を見つけ、よりよい授業をめざして実践に変えていく。 そんなサイクルを築けることが見えた授業研究となりました。

横浜市立老松中学校 社会科 教諭 石井大介氏


学校生活では授業の時間こそ満足感を

横浜市教育委員会の山本氏は、学校生活のほとんどは授業時間であり、児童生徒が授業の中でこそ自己発揮をしたり、自己実現できたり、満足感を得られたりできなければ、学校生活はつまらないものになってしまうと指摘します。「休み時間や給食、部活動が楽しみだという児童生徒もいますが、学校の授業の中でこそ、児童生徒が満足感を得て、みんなから認められたり、自分なりに努力してできるようになったりしてほしい。 そうしたものが詰まっているのが授業だと思っています。tomoLinksの授業診断サービスでも、そうした部分を可視化できるようになると教員たちがこの仕事にもっと魅力を感じ、もっとよい教育を作っていけると思います」と期待を込めて語りました。

現在、横浜市は教育DXの中心となる新たな教育センターの設置を計画中。 研修施設としての役割はもち
ろん、横浜市の教育ビッグデータが集まるようなスケールメリットを生かしたデータ分析や最新のテクノロジーが集結するような場をめざしているといいます。 また、教育データ活用の一環として、tomoLinksの授業診断サービスを用いた調査研究を実施するとのことです。大都市自治体の横浜市が抱える教育課題は多岐にわたりますが、持続可能な教育の質向上をめざして、次のステージへと動き始めています。


※記載内容は、2023年12月時点の内容です




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